益子町「まーしこ・むーしか文庫」さんを訪問!

文庫訪問記

3/9、娘の所属する合唱部が翌日宇都宮市で開催される関東大会に出ることをきっかけに、家族で宇都宮行きを決めました。そして例のごとく「宇都宮から近い場所で家庭文庫はないだろうか」と探したところ、ありました!! 車で50分ほどのところにある、益子焼で有名な益子町の「まーしこ・むーしか文庫」さんが!

「むーしか」と聞いて、ん?どこかで聞いたことがあるな?と思ったら、東京・練馬区でかつて児童文学者のいぬいとみこさんらが開ていた「ムーシカ文庫」と同じ「むーしか」であることがわかりました。ネットや雑誌の記事を拝見し、「まーしこ・むーしか文庫」さんが、その「ムーシカ文庫」の蔵書を引き継ぐ形で益子町で長年文庫活動を継続されていることを知り、これは「ぜひお尋ねしなくては!」と前のめりになって、雑誌に載っていた番号へ電話したところ、今回お会いする石川綾子さんがお出になりました。

電話口で「以前は毎週土曜日の午後開けていたのだけど、今は第1と第3だけにしているの」とおっしゃる石川さん。私は無理を承知で「9日(第2土曜)なのですが、ぜひお尋ねしてもよろしいでしょうか?」とお願いしたところ「仕事しているかもだけど、いいわよ」とおっしゃっていただき、今回の文庫訪問が決まりました。本当にありがとうございます!

朝7時頃、新潟を車で出発。途中休み休み、お昼(益子町の手打蕎麦「藤人」さん)もしっかりとって、予定どおり13:00に「まーしこ・むーしか文庫」へ到着!

清々しく晴れたお天気の中、山間の木々の中から山小屋風の建物が見え、敷地の入り口にちいさく文庫の名前が描かれた丸看板を発見し中へ入ると石川さんの旦那様で陶芸家の石川若彦さんが外でお仕事のまっ最中。窯で焼いたうつわの貫入(釉薬のヒビのような部分)にコーヒーを染み込ませるという作業をしていらっしゃいました。こちらも興味深かったのですが、「文庫はこらちですよ→」と教えてくださり、ちょうどそのタイミングで奥から石川綾子さんが出てこられ、「よくいらっしゃいました。どうぞ文庫へ」とご案内いただき、私、夫、息子の3人でお邪魔しました。

お部屋に入ると、「まあ、なんてかわいい空間!」と第一印象で思いました。うずたかく本棚には本が収められているのだけど、割合天井が高く抜けていて圧迫感なく、看板といい本棚といい、壁に飾ってある(文庫の)おたんじょうびボードや吊り下げらたモビールといい、手作りのものが沢山あって、あたたかな、ユーモアセンスも感じるような一部屋が広がっていました。一面の大きな窓からは日の光も差し込んでいました。

石川さんの明るく、飾らないお人柄のせいか、すぐに私はうちとけ、手土産をお渡しするのも忘れてさっそく質問をなげかけ、石川さんの話に夢中になってしまいました。お話の中からいくつか印象に残ったことをメモしておきます。

1960-70年代くらい文庫が盛んだった頃、私も東京・世田谷区の経堂にある「わかくさ文庫」に小学3年の時から親友と一緒に通っていたの。(そのご親友が「東京こども図書館」の松岡享子さんの養女の方とのこと!)

「わかくさ文庫」では、松岡享子さんはじめお話を聞かせてくださる方が来ていて、心から文庫を楽しみ「文庫は楽しいところ!」という経験をさせてもらった。

その後大人になり、児童文学からは20年以上離れ、東京でOLをしていたけど、30歳で益子町に移り住むことになり、縁あって益子の小学校で読み聞かせをするボランティアに関わることになった。「むかしお話が好きだったなぁ」と思い出したのだそう。

いざ子どもたちにお話を聞かせるとなると、自分は何も勉強してきていないと思い、東京こども図書館で今も行われている「お話の講習会」に参加、素語り(素話)や絵本の勉強を始めた。

講習会が終わる直前、松岡享子さんから「あなた、益子で文庫をやってみない?」とお声をかけていただき、それまでなんとなく軒先文庫のような形で自分でもやってみたいなと思っていたこともあって、えいやっと今の文庫を始めたのが、1997年のこと。それから27年が経つ。

「ムーシカ文庫」(1965〜1988)の蔵書を引き受けることになり、それと同時に文庫で使われていた本棚や看板、図書カード、いろいろなものを引き継ぐことになった。もちろん本は古くなっていくので自分自身で、または伊藤忠記念財団の助成金も活用させてもらったりして新しく買い替えたり備品類も調達し、今管理している蔵書は五千冊以上になっている。本棚もほぼ自分たち(石川さんご夫婦)の手作り。

文庫がいいのは、親がいないのがよかったのよね。昔は特にね。今ここ(益子町)ではみな車でいらっしゃるから、そういうわけにいかないけどね。

私は子どもの相手がそこまで得意じゃないけど、本を介せば、本の話ができる。そうやってこれまで子どもたちとの関係をつくってきたと思う。

いっぱい失敗するし、してきたし、あまり気にしすぎない、無理しないのが文庫を長く続けるコツかもしれない。だいたいイベントも文庫のお誕生日月である6月とクリスマス会、年2回にしている。

これらの会には、文庫の卒業生?も手伝いに来てくれる。東京・それこそムーシカ文庫のあった練馬で図書館司書になった文庫出身者もいる。文庫で育った子が、結婚してまたその子どもを連れてきてくれたり、そうやって関係が続いていることが嬉しいよね。

おはなし会は、いろいろな協力をしてくれる仲間もいてずっと続けていて。文庫が始まるより前の30年前から。文庫では14時から固定でおはなし会をやっていたのだけど、土曜日は子ども達習い事があったりして、なかなか時間帯が揃わなくて。今では子ども達の様子をみて臨機応変に読むという形でやっている。

文庫で大事にしているのは、「子どもに嘘をつかない」「正直でありたい」ということ。やっぱり読んでいない本だってもちろんあるし、それは正直に読んでいないことを伝えている。ただ、読んでいないものでも、子ども達が興味を持って借りていった本があればそれは後からでも読むようにしている。

戦争や身障者に関わる本、自己犠牲をもとめるような類の絵本は、文庫では置かないようにしている。あとは行間を読むことを求められるような観念的な絵本とか。子どもにとって読みっぱなしになって、私自身がそれをフォローできないような本は置かない。

おはなし会では、たとえば5本中2本は〝昔話〟を選ぶようにしている。洋ものと和ものとね。やっぱり昔話は子どもたちの反応がいいのよね。

私の文庫活動での悩みも聞いてくださったりしながら、あっという間の1時間半。旦那様作のうつわでお茶もいただき、とてもリラックスして過ごさせていただきました。居心地のいい文庫、ひだまりのような場所ってこんな感じなんだなということを、目からも耳からも味わわせていただきました。息子も石川さんに一冊読んでもらって喜んでいました。ありがとうございます!

そうそう、石川家にはご夫婦の他にノイジー(犬)さん、コットン(黒猫)さんもいました。かわいらしい2匹の名前は『がちょうのペチューニア』の絵本からいただいたそう。前には黒猫のピッチ(こちらも絵本『こねこのぴっち』がありますね)さんもいたようで、そういえば、入り口のドア横の看板「まーしこ・むーしか文庫」には黒猫が描かれていましたし、文庫のマークにも猫が登場していました。実は、猫ちゃんがここの主だったりして!文庫の部屋に接続する居間をちらりと覗いたら、コットンさんとばっちり目が合いました。またぜひ会いに行きたいなと思います!

帰り際、お二人(綾子さんも陶芸をされる)の工房やギャラリー〝waka studio〟も見せていただき、焼き物好きな私たち夫婦はお土産にいくつか購入して帰りました。若彦さんは天良にも1つ素敵な作品をプレゼントしてくださりました!感謝(涙)。うつわを使うたびに、この日のことをきっと思い出すのだろうなと思いながら・・・。

この後、同じ益子町にある絵本の専門店「たね書房」さんにも立ち寄りました。店主・田中裕香里さんの絵本や子ども達(あるいは大人もふくめ)への愛情、まなざしが伝わってくるしっかりとした選書。こんな本屋さんが身近にあればいいのにな、と思えるお店でした。息子はキッズスペース(←これがあるのもうれしい!)でレゴ遊び。私はゆっくりしたかったけど、時間が許さずささっと数冊を購入。その中で無意識で選んだ『たねのずかん』(福音館書店の「みるずかん・かんじるずかん」シリーズ)と、たね書房さんのたねが偶然一致!「たね」という言葉に反応したのかも。田中さんはこの4月から、石川綾子さんも受けたという東京こども図書館の「お話の講習会」(第40期)を受けられるのだそう。2人の小学生の子育てもしながらの2年間のコース、益子町から毎月通われるそうで「頑張ってくださいね!」と声をかけ、私も文庫、がんばろう!と思いながらお店を後にしました。こうして私も文庫や絵本を通して、いろいろな人のパワーを分けてもらっていることが嬉しくて、やっぱり天良が巡り合わせてくれているこの縁を大切にしたいなと改めて思ったのでした。

⚫︎まーしこ・むーしか文庫:栃木県芳賀郡益子町大沢2809 <第1・3土曜日の13時〜17時> TEL 0285-72-8433

⚫︎たね書房:栃木県芳賀郡益子町益子3435-1 陶芸村内 <定休日 日・月> TEL 0285-81-7024 

♪第4土曜17:00〜には「おはなしの時間」を設けているそうです ※絵本に夢中で、肝心の絵本が撮れていないため、店内の様子はリンクのInstagramをご覧ください!

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