斎藤さんとの出会い はじめの一歩!
2023年2月11日、神保町にある子どもの本の専門店「Book House Cafe」で開催されたイベントに参加した。

『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間たち』で知られる児童文学の作家で、福音館書店の専務取締役を務めた編集者でもある斎藤惇夫(さいとう あつお)さんの絵本講座~こどもたちを本の世界に導くために~があり、その斎藤さんが新潟は長岡のご出身(現在はさいたま在住)とのことで、「これはお会いしなくては!」と喜び勇んでうかがった。


Zoomと対面の両方でおこなわれた講座は約2時間。82歳になられる(なんとお若い!)斎藤さんの語り口がとても柔らかく、また現役の幼稚園の園長先生なだけあり絵はなくとも、ひとつながりの物語を聴いているようなあたたかい心地よさが会場を包み込み、あっという間の2時間でした。
私は斎藤さんの著書は読んだことがないのですが、夫に聞いたら斎藤さんの『ガンバとカワウソの冒険』(1982)は小学校の時唯一まともに読んだ本だったとのこと。さらに2018年新潟の福島潟で行われたシンポジウムに、福島潟から始まる旅『河童のユウタの冒険』の作家として講演とパネリスト出演されていたこと、これまでの絵本講座で語られた面々(瀬田貞二さん、石井桃子さんなど)の並びを見たら、興味が湧かないはずがなく・・・。
今回はお話のテーマが「私の出会った作家・イラストレーター(2)」で、仕事が縁で長年お付き合いのあった堀内誠一さんとのエピソードをはじめ、作家で児童文学者の長谷川摂子さん、子どもの本との向き合い方において、多くの学びや激励やつながりのあった人々を紹介するというものだった。
そのメイン話の前段、前日東京に珍しく大雪予報の出たこともあり、最初に「雪といえば…」と斎藤さんが思い浮かべる絵本作品の紹介、子供の頃祖母から聞かされたにいがたの昔話や、豪雪地帯の冬の雪の世界の心象風景についてのお話をされた。
メモの中で印象に残っているものを記しておく。
・冬、雪の本といえば、『はたらきもののじょせつしゃけいてぃ』(バージニア・リー・バートン 文・絵 / いしい ももこ 訳)、『はなをくんくん』(ルース・クラウス 文 / マーク・シーモント 絵 / きじま はじめ 訳)、『かさじぞう』(瀬田貞二 再話 / 赤羽 末吉 画)、『ゆきわたり』(宮沢賢治)が思い浮かぶ。
・『かさじぞう』の赤羽末吉さんの挿絵は、挿絵なしで聞いた祖母の昔話でイメージしたその想像をはるかに超えるものを見せてくれた。(赤羽さんは、福音館でつくった『つるにょうぼう』のつるの去っていく絵もとても美しい風景に描いてくれた)
・小三の時に学校で読んでもらった『ゆきわたり』と昔話で祖母が聞かせてくれた『かさじぞう』は、”雪の向こう側の、緑滴る豊穣な世界”を感じさせてくれた大切な本。
・雪に閉ざされる冬には、よく祖母が昔話を聞かせてくれた。石油ストーブなどない時代、火鉢の脇やこたつで語ってくれる祖母のその火鉢の灰をならす魔術師のような手や優しい目、その祖母の向こう側には、そのまた祖母や先人たちの存在が感じられ、安心感やあたたかさを感じた。
そんな導入のあと斎藤さんの話は、憧れの地・アフリカへと飛んでいく。というのも、64歳にして初めて訪れたサバンナの大草原で、そこで見た光景に「太古の静寂」と呼べるような感動的な経験をし、しかもそれは「子どもの頃に絵本や写真を通してみていた世界」に再び出会ったような「久しぶり」という感覚であったという。以来、動物たちに挨拶したい一心で、斎藤さんは2、3年に一度は「また行きたい」という欲望がわき、その大草原(タンザニア・セレンゲティ/マニャラ湖国立公園)へ繰り返し出かけることになったそう。
斎藤さんのアフリカ行きの背景には、アフリカの風景が、先ほど導入部分でお話された子供の頃、雪の中から見ていた夢の世界そのもので、祖母の昔話の中で感じた先人たちの存在やあたたかさ、そして安心感、冬の雪国の湿り気(新潟の冬は、太平洋側と違って常に湿り気があるのです!)のようなものが渾然一体となり眼前の風景とリンクし、「自身の幼年時代と再会できた」ことが大きかったようです。
このエピソードを伺い、アフリカに行ったことのない私でも冬の祖母との時間や本が与えてくれたふるさとの光景の豊かさというのは何となく想像ができ、子どもの頃の思い出は大人になっても、あるいは82歳になっても、鮮やかにその人の心の中に生きていて、それがまたその人の人生を支えてくれているのだという印象を強く受けました。
前段の部分の話が分厚く、本題のイラストレーターの堀内さんとのエピソードはその後からということになるのですが、私はこの話を聞けただけでも大いに参考になりました。またその後のお話は、この絵本大学がアーカイブ配信(有料)となっていることからここでは触れません。
とはいえ、斎藤さんのお話に登場した長谷川摂子さんのお名前は初めて伺ったのですが、『きょだいな きょだいな』(長谷川摂子 作/降矢なな 絵)という息子が大好きな絵本の作家であると知り、また娘さんを登場させ、園児たちが水と戯れる様子を写真絵本にして描いた『みず』という作品も面白く、俄然興味が湧きました。
長谷川さんは、フランス文学、哲学を大学や大学院で学ばれたのち保育士になられ、その後「赤門こども文庫」「おはなしくらぶ」などを主宰、亡くなる直前まで読み聞かせの活動を行っていたそうです。
そんな長谷川さんのことを、斎藤さんは「長谷川さんのインタビュー、また書評はみごとでした。私が作品を書いた時も、いつも読み手の一人として、すぐに読んで反応して文章をお寄せくださり、また激励くださった。長谷川さんは子どもの本のことを深く考えて感じながら、いつも子どもの前に立っていらした。子どもたちが絵本の中に入り込んできてくれることを実感し、また子どもたちの心の中の不思議さを、自分の言葉で表現された。それも子供の世界に入り込むのと同次元で…。いつかご出身地である出雲の神話、ふるさとの伝説を書いてほしいと思っていたし、アフリカにも一緒にお連れしたかった。そのことが悔やまれてならない」とおっしゃっていました。
斎藤さんが紹介されていた、未来社から出ている長谷川さんのご著書『とんぼの目玉』『家郷のガラス絵 -出雲の子ども時代』もぜひ読んでみたいと思いました。みずみずしい感性で子どもたちにも直に触れながら、読み手としても書き手としても大変な才能の持ち主だったことが想像される長谷川さん。4人もお子さんがいらしたとのことで、母親としても大先輩であり、児童文学者としてのものの見方や姿勢、文庫や読み聞かせ活動のその奥にある真意や情熱について、ぜひ知りたいと思いました。


講座後には、斎藤さんに直接お声がけして、ぜひ新潟で将来家庭文庫を開きたいと考えていることをお伝えしたら、「新潟の方には知り合いもいるから何かしら紹介できると思う。どうぞがんばってください」と励ましのお言葉をいただきました。何だか心の奥底から熱い気持ちが湧いてきた気がしました。
またさらには会場にいらしていた、子どもの本を学ぶ会「子どもの本の散歩道」のO様とも偶々お話でき、O様が新潟市で「野の花文庫」をやっていらした眞壁伍郎先生(娘の同級生のお友達のお祖父様(!!)でご近所にお住まい)の連続講座に数年前参加されていたとのことで、思わぬところで“つながり”ができました。「私たちもそうだったけれど、こうして斎藤先生と出会えたことも何かの縁ね。ここからきっと始まるのよ。今日はその最初の扉が開かれたわね」とO様。その言葉に私は、またまた嬉しくなって長居したい気持ちを残しつつ会場を後にしました。


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